クリスマスと聞いて私が連想するものPart2

俺は今、台所に1人で立っている…
既に家人は寝静まり、火も落とされているため台所は恐ろしく寒い。
もっとも、この沁みる寒さは室温の低さのせいだけでもないのだが…


今日はクリスマス・イブ。
聖なる夜。ホーリーナイト。
もはや日本では商業的ビッグイベントと化したこの日。普段では許されない贅沢が認められる日でもあるだろう。
ケーキを食べる、ケンタッキーフライドチキンを味わう、はたまたベッドの上でお互いの身体を貪りあ(以下自粛)。
しかしこの日、クリスマス・イブに俺が決まって食べるのはケーキでも七面鳥でも、もちろん女t(ryでもなく…



―――おでん、なのである。


話は10年以上前、大学時代に遡る…


当時、俺のアパートは、友人連中における酒呑みの集まりの場と化していた。
理由は簡単。コンビニに最も近いのが、俺のアパートだったからだ。ちなみに徒歩20秒。
クリスマス・イブの日。彼女もいなく特に予定のない友人連中が例によって俺のアパートに集まり、飲み会をすることになった。
そこで、せっかくだから鍋物でもするかということになり…
しかしそこにいるのは料理などロクにするはずもない大学生の野郎共。
比較的手軽に調理できるおでんに話が流れていったのは必然であった。
しかしそこにいるのは料理などロクにするはずもない大学生の野郎共。
油抜きとか隠し包丁とかするでもなく大鍋におでん種をガンガンぶち込みガンガン煮込み。
あのyoshirohに至っては、隠し味、と称して俺の作りおきのカレーをこっそり混ぜる始末であった。
まるでスケールの小さい闇鍋である。
さらには容量ギリギリの鍋にはんぺんをあるだけぶち込んで蓋をして煮たもんだからさぁ大変。
蒸されて膨らんだはんぺんが沸騰の勢いとあいまって蓋を押し上げ、蓋を落とし床をけたたましく鳴らしたのである。
それが仲間内で大いにウケ、『はんぺん爆発鍋』として今でも俺たちの語り草になっている。
それ以来なぜか、誰が言うともなく彼女のいないクリスマスにはおでんを食べることが俺達の暗黙の掟となっていったのである………


―――さて、今年も作るか。



材料は、昨日のうちに揃えておいた。
もちろん、一人で食べるおでんだ。自分の好みの具材しか買ってない。
量は多いが、当然、全部使うわけではない。

半分くらいでいいだろう。
違和感を感じるのはたぶん気のせいだ。



実は、味のしみこみにくい大根と玉子、糸こんにゃくは昨日のうちに下ごしらえしておいた。
やはり味のしみたほうがおいしい。



なべに種を形よく並べ、つゆを注ぐ。
きっちり並べられるように、鍋は小さいのを選ぶ。
それでも隙間ができたので、急遽ごぼう巻きを4本にする。
つゆは、市販の『おでんの素』を溶かしただけだが、正直これでも充分に美味い。
そもそも明日も仕事。醤油とだしから作るなんて時間はかけられない。



ひたひたになったところで弱火でじっくり煮込み、はんぺんをのっけて…



―――できた。
なかなかの見栄え。
本来ならばこれで完成なのだが、ここからが俺のショータイムだ。



とにかくはんぺんをぶち込む。はんぺん2袋分。
残念ながら全量は入らなかった。小さい鍋を使ったのがそもそもの敗因だ。



結構重いガラスの蓋を乗せてもわずかに浮き上がる。果たして、これがどこまでふくらむのか…
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―――はんぺん爆発鍋。
10年前の再現はならなかったが、それでも重いガラス蓋をここまで持ち上げるだけでもたいしたものだ。
ちなみに賞味期限は短い。
はんぺんは冷めるとあっという間にしぼむからだ。
ちなみにもう感づいているだろうが、数あるおでん種の中でもはんぺんと餅入り巾着は私の大好物である。



よなよなエールと、誕生日に作ったパーシャルマッシングで仕込んだビールを解禁。
BGMは…
よし、ここは1999ChristmasEveの『9回目のクリスマスイブ』にしよう。
あと、フランク・ミルズの『愛のオルゴール』もいいな。
腹を満たし、極上の酒とメロディアスな旋律に酔ってそのまま寝てしまうのだ。

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ふいに、大学時代を思い出す。
バイト先で見た、あの笑顔。


ま、今となってはそれも思い出、か。